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 ●一番鮮やかな紅葉山を探すには? 


 今年も北国から紅葉の便りが届くようになりました。東京近郊では、桜など黄色い葉を落とし始めている樹木もありますが、赤く色づいた樹木はほとんどなく、本格的な紅葉にはまだもう少しかかるようです。日が短くなって気温が下がると落葉樹が一気に色づき、束の間、自然が豪華絢爛なショーを私達に楽しませてくれる日が待ち遠しいですね。

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 さて今、「日が短くなって気温が下がると一気に色づき」と書きました。これは経験から感覚的に正しいという気がしますが、本当に「日が短くなること」と「気温が下がること」が紅葉に必要な条件なのでしょうか。じつは紅葉のしくみはかなり分かっています。簡単に説明してみましょう。

 葉が赤く色づくころ、葉っぱの構造には、大きな変化が起きています。枝と葉の間にコルク状の膜が出来て、葉っぱへの栄養分の流れが遮断されるのです。根から幹、枝を経由して葉に流れていた栄養の流れが止まってしまうので、それまで光合成を行うために生成と分解をたえず繰り返していた葉緑素の生成が押さえられ(結果として分解が進み)、葉の緑色がくすんできます。もし、葉の中にもともとカロチンという黄色の色素があれば、葉っぱは緑から黄色に変化します。

 この時、葉っぱと枝との間はコルク状の栓で仕切られているために、葉っぱの水分が葉面から蒸発するにつれて細胞液中の糖濃度が上昇します。そこに強い太陽光がふりそそぐことで、糖とあるタンパク質が反応して、新たに新しい色素が生成されます。それがアントシアニンという赤い色素で、紅葉の赤い色の正体です。ちなみにアントシアニンは、熟したリンゴやぶどう、ブルーベリーなどの赤や紫の色素と同種の物質です。

 面白いことに、低温と強い太陽光によってアントシアニンが多く生成される一方で、葉緑素は逆に破壊されています。したがって、最も鮮やかに赤く色付く紅葉は、「寒く」て「乾燥」している「晴天」という3条件が重なったときに現れるということが分かります。

 「秋の夕日に〜照る山もみじ〜♪」という童謡の通り、朝の冷え込みの後、日中の空気が乾燥して良く晴れた日の夕方には、まさに山火事のような鮮やかな紅葉が堪能できるわけです。長雨が続く秋には、あまり鮮やかな紅葉は見られないというのもうなずけますね。

 余談ながら私の故郷である長野県東部の佐久平は日本一晴天率が高いそうで(そのためにいくつか天文関連施設があります)、秋には特に晴天の日が多くて空気が乾燥し、高原なので冷え込みも厳しいのです。太陽光がふんだんに降り注ぐ南面に広い裾野を持つ浅間連峰の紅葉が、燃えるように鮮やかで美しかったのは、紅葉のための3条件をうまく満たしていたせいであって、気のせいだけではなかったと、思いあたります。

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 ところで、このように紅葉のしくみが分かったとしても、「一体、落葉樹が生きていく上で紅葉は何の意味があるのか?」ということは謎のままなのだそうです。どうせ落としてしまう葉っぱなら、わざわざ赤い色をつけてぶら下げておいたりせずに、さっさと落としてしまえばいいのではないか、という気もします。紅葉は虫へのサインだとか、光合成機能の衰えた葉緑体を守るためとか諸説ありますが、まだ定説はないようです。 

 よく進化した植物の世界で、多くの種が紅葉という「めんどうな」ことをしているからには、なにか合理的な理由があってもおかしくはないでしょう。私の素人考えでは、「良い腐葉土」と関連があるのではないかと想像しています。


 果たして今年は美しい紅葉が見られるのでしょうか?天気の長期予報 によると、気温、湿度、天気ともに全国的に平年並みのところが多そうです。どこに、いつ紅葉狩りに行くか、そろそろ考え始めるとしますか。

[10月27日更新]

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