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 ●「ペルーに電波望遠鏡を」・・・国立天文台の研究者ら、募金を呼びかけ (10/9)

  南米ペルーといえば、アンデス山脈やインカ帝国の遺跡、ナスカの地上絵、民族衣装を着て演奏されるフォルクローレの響きなど、とにかく異文化のイメージが強い国ですが、明治期には大勢の日本人がペルーに入植し、日系の方々は現在でも約8万人いるという、日本と地理的には遠くても伝統的に良い交流をしてきた国です。
  そのペルーの首都・リマから車で6時間(320km)のアンデス山脈の美しい高原都市・ワンカイヨに、約半世紀前にペルーに渡り、半生をかけて太陽観測所を作り、今なおペルーの天文学の普及に情熱を傾けている一人の日本人天文学者、石塚睦(74)さんがいます。 ペルーで天文学を立ち上げるために捧げた彼の半生は実に苦難に満ちていて、簡単に語りつくせるものではありません。今回取材をしたのは、次男のイシツカ・ホセ(44)さんで、三鷹にある国立天文台で電波天文学の研究をされています。

  国立天文台の研究者から私のところに、イシツカさんを取材してメディアに紹介して欲しいという連絡が入ったのは、9月上旬でした。それによると、「来春、ペルー初の電波望遠鏡が誕生しようとしているが、財政難で年間550万円の運営経費の目処がまったく立たず、開設が危ぶまれている。ペルーの天文学のために親子二代で苦闘する姿を知る日本の研究者たちが募金活動の支援に乗り出した」というのです。
  ここに、ペルーの電波望遠鏡が誕生する経緯と、なぜ募金をしているのかが分かるように取材内容を紹介します。(一賛同者として、勝手ながら、一人でも多くの方が理解してくださることの助けになれば嬉しいです。)


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  父・石塚睦さん(74)は47年前、京都大学大学院在学中に恩師の命を受けて太陽コロナ観測所を建設するために、妻と長男を伴ってペルーに渡りました。当初3年間の計画は、建設地探しと予算不足のために難航し、世界一の高地に太陽コロナ観測所を完成させたのは1979年、さらに資金難のために観測を開始したのはその9年後でした。
  ところが、観測開始からわずか3ヶ月後、反政府ゲリラ勢力の攻撃を受けて観測所は全壊してしまいます。さらに睦さんはゲリラから命を狙われ身を隠す生活を余儀なくされますが、それでもペルーにとどまることを選んだ睦さんは、現在、ペルー地球物理研究所で教育天文台建設に情熱を注いでいます。

 「父は、一度始めたら最後まで投げ出さないという昔の考え方の人なんです。」と息子のホセさんは言います。ペルーで生まれ育ったホセさんはペルーで天文学を志しますが国内の大学には専門家が一人もいなかったため、1995年に来日し、東京大学で博士号を取得後、現在は国立天文台で電波天文学を研究しています。

  そんな石塚さん父子に2年前に大きなチャンスが訪れます。
 

電波望遠鏡に転用予定のシカイヤ・アンテナ局は、標高3,375m 年平均気温12℃ 月平均降水量74mmの環境にある。(ペルーの32mアンテナから転載)
 ワンカイヨから数キロのところにあるシカイヤ・アンテナ局の直径32メートルの衛星通信用パラボラアンテナが、すでに使用されなくなったことを知ったのです。アンテナに天文観測用の受信機を設置すれば、南半球で数少ない大型電波望遠鏡に改造でき、ペルー初の電波望遠鏡となり、南半球で屈指の電波望遠鏡になるのです。しかも、隣国チリに建設が決まっている大規模電波望遠鏡群「アルマ(ALMA)」とは全く別の役割(6.7GHzのセンチ波による、若い星の電波観測)を担わせることができ、天文研究にも重要な拠点になります。そこで睦さんらは、パラボラアンテナを所有する民間電話会社に打診しました。すると幸運なことに、民間電話会社は無償提供を承諾(移管手続きはこれから)してくれたのです。
  しかし天文観測用の受信機などペルーでは入手できるはずもなく、資金もない。そこで睦さんは、祖国日本の国立天文台に協力を要請します。睦さんの長年にわたるペルーでの苦闘を知る国立天文台は、今年3月、望遠鏡への改造に必要な受信機の一部を支援し、互いに研究協力をする協定を締結しました。
  現在同天文台で作成中の受信機は、年内に完成する予定です。
  こうして、ここまでいくつかの壁を突破してきたこの計画ですが、運営費用の壁がなお立ちはだかっています。予算不足のために電気代や水道代、警備費など年間550万円(※注)のめどが立っていないのです。施設費用は、本来ペルー政府が拠出するべきですが、ペルーの厳しい財政状況のため予算がありません。米国の大学や関係の研究所、ペルーと関係の深い日系企業にも支援を求めていますが厳しい状況で、最後にふみ切った手段が募金だということです。
  そんな中、ホセさんは来春ペルーに帰国し、ペルーの電波天文学の牽引役になる決意を固めています。
  ペルーの電波望遠鏡を支援する会の代表を務める井上允国立天文台教授は次のようにおっしゃっていました。
「私が子供のころ、日本は貧しくて科学など縁遠い存在だと思っていました。しかし、湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞した時、”日本人でもノーベル賞がとれるんだ”と感動したのを憶えています。(経済復興の途上にある)今のペルーに、世界でも屈指の電波望遠鏡を開設することは、ペルー国民のみなさんにも励みになるに違いないと思っています。それに、石塚さんは日本人の誇りです。同じ日本人が50年近くもの間、異国に天文学を根づかせるために心血を注いできた活動をなんとか支援したいという気持ちも強い。ぜひ皆さんの助けをいただきたいです」
(左)電波望遠鏡について語るイシツカ・ホセさん
(右)「ペルーの電波望遠鏡を支援する会」代表の井上教授
  ※注 ちなみに一人あたりGNI(国民総所得/人口)で比べると日本は34,510米ドル、ペルーは2,150米ドルです(世界銀行の2003年データ)。ですので、大雑把ですが日本での550万円は、ペルーでの価値としては8800万円以上に相当すると言っていいでしょう。
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 ●募金に関する情報:ペルーの電波望遠鏡を支援する会
 ●イシツカ・ホセさんによる電波望遠鏡計画の紹介: ペルーの32mアンテナ
 ●石塚睦さんインタビュー記事: 宇宙now 1998年5月号 ★この人に聞く★
 ●天文学者を夫に持つ天文台マダムさんの応援ページ: 天文台マダム日記

[2004年10月9日更新/25日修正]

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